2020.08.28

アートシンキングの意義

博報堂ブランド・イノベーションデザインの竹内と申します。アルスエレクトロニカ・フェスティバル2020開催間近。チームメンバーとともに、数回の連載を通じて、今年のフェスティバルのポイント等をお伝えしていきたいと思います。
(アルスエレクトロニカは、オーストリア・リンツ市を拠点とする世界的な文化・芸術機関です。博報堂は、アルスエレクトロニカ内の組織でR&D・コンサルティング機能を有するアルスエレクトロニカ・フューチャーラボと、2014年度より提携し、協業しています。)

アートシンキングは、不確実な世界を歩むための「未来のコンパス」である。

はじめに、私たちが考えるアートシンキングの意義についてお話しします。ここでいうアートは、メディアアートやバイオアートなど、テクノロジーとの境界領域のアートを指します。それは、私たちに、未来社会に関する重要な問いを投げかけます。

未来の先行指標としてのアートに触発され、あるかもしれない未来をリアルに想像する。ありたい未来・あるべき未来の姿を組織で共有し、イノベーションの原動力とする。それが、アートシンキングのねらいです。

テクノロジーは、(それを生み出し、利用するはずの人間の想像を凌駕する勢いで)急速に進歩しています。VUCA※の時代と言われるように、世界はますます不確実性を増しています。COVID-19のパンデミックは、不確実性を加速し、New Normal=新しい価値観や行動に関する合意形成の必要性を、私たちに突きつけています。

※Volatility(変動性), Uncertainty(不確実性), Complexity(複雑性), Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、現在の社会・経済状況が予測不可能であることを表します。

誰にとっても不安で不透明な現在。だからこそ、どんな未来にしたいかという「主体的未来観」を持つことが、個と組織を強くし、イノベーションの苗床を育み、未来の世界を歩むための指針になると、私たちは考えています。そして、「主体的未来観」を共創・共有するための、先端的かつ本質的な方法として、アートシンキングを推進しています。

アルスエレクトロニカ・フェスティバル2020は、集合知のNew Normalになるかもしれない。

毎年9月にオーストリア・リンツ市で開催されるアルスエレクトロニカ・フェスティバルは、アートシンキング・プログラムにとって非常に重要かつ有意義な場として位置づけられます。

COVID-19の世界的流行により、今年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルは、大半のコンテンツがオンライン化され、世界中の関連プログラムがネットワークでつながります。

現地での「フィジカルな」フェスティバルが大幅に縮小されることに、一抹のさみしさも感じますが、一方で、これはまたとない機会でもあると思います。

プログラムのオンライン化により、多くの日本企業の皆さまに、(お住まいや企業所在地、人数を問わず)ご参加いただくことが可能になります。開催期間中、弊社でも、クライアント企業さま向けに、日本版オリジナルプログラムをご提供してまいります。

そして、オンライン化が機会であると感じる最大の理由は、他ならぬアルスエレクトロニカ自身が、この状況を重要な転換点と捉え、フェスティバルを進化させようとさまざまな工夫をしていることです。

今年のフェスティバルのテーマは「In Kepler’s Gardens(ケプラーの庭で)」。天動説が常識だった時代、科学的態度を大切に、天体運動の法則を究めたヨハネス・ケプラー(リンツ市にゆかりのある人物)の名を冠したフェスティバルです。Gardensには、世界中の知をネットワークし、人々が自由に考え、対話し、多様な文化が混ざり合う土壌を育む、といった意味が込められています。

「ケプラーの庭で」。一見ポエティックなこのテーマに、アルスエレクトロニカが込めた思いは深いはずです。このフェスティバルが、集合知のNew Normalとでもいうべき場になるのではないかと感じます。次回のコラムでは、フェスティバルテーマに関する、私なりの読み解きを書きたいと思います。

【関連リンク】
Ars Electronica top page
https://ars.electronica.art/news/en/
Art Thinking Program
https://ars.electronica.art/futurelab/en/projects-art-thinking-program/
Ars Electronica Festival2020
https://ars.electronica.art/keplersgardens/

WRITER

博報堂 ブランド・イノベーションデザイン 局長
竹内慶

神奈川県生まれ。双子座らしく(?)、一見矛盾する二つの要素、論理と感覚、右脳と左脳、独創と共創…等々の統合をテーマとする。微細な差異を競うのではなく、豊かな選択肢を増やすようなブランドづくりを目指したい。アルスエレクトロニカ協働プロジェクトの博報堂側リーダー。

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